櫨(ハゼ)の木と木蝋
櫨の木と木蝋の特徴、うるしの種類、由来、産地、含有する脂肪酸や分子式について
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著者の大西暢夫様は写真家であり、映画監督です。映画や絵本で多数受賞経験があり、著書は20冊ほど出版されています。
[植物学上のハゼノキ ]
【1.ウルシ科及びウルシ属の概要】
ウルシ科(Anacardiaceae)の植物は世界に70属600種あり多く熱帯から温帯、亜熱帯まで広く分布する。
種類的には熱帯と亜熱帯に多く熱帯果樹のマンゴー、カシューノキ、ピスタチオ、漆原料木のウルシ、採蝋のリューキュウハゼ、染料のヤマハゼ等、有用植物が多く含まれる。
双子葉植物、離弁花類で、高木、低木又は藤本はなし、葉は三出または羽状復葉である。花一般に小さい、五数性で放射相称。
果実は核果で中に1個の種子をもつ。日本にはウルシ属5種、チャチンモドキ族1種が野生している。
ウルシ属(Phus Linn)は、両半球の熱帯より温帯に亘って約160種類程あって、ウルシ科植物の大部分を占める。
学名はギリシャ語rhousに由来し、或る種のウルシを指す。
或いは、ギリシャ古名ケルト語rhudd(赤色の意)に由来するともいわれれる。
落葉又は常緑で喬木、藻木ないしは蔓性である。
【2.含蝋日本産ウルシ属とその識別】
果実の中果皮に蝋を含む日本産ウルシ属植物には、ツタウルシ、ヌルデ、ヤマウルシ、ハゼノキ(リュウキュウハゼ)、ヤマハゼ、ウルシがある。
この中でハゼノキは、その結実量や中果皮の割合、合蝋率で、採蝋に最も
適した樹種である。これらの樹種は、すべて落葉樹で外観等類似している。
1.ツルタウルシ 落葉藤木。
温帯~暖帯上部。 北海道、本州各地、四国、九州、屋久島。南千島、樺太、台湾、中国。
樹液は有毒で触れると著しくかぶれる。
2.ハゼノキ 落葉高木
暖帯~亜熱帯。本州(中部以西)、四国、九州、流球。済州島、台湾、中国、インドシナ。
用途:果実からろう(和ろうそく、ポマード、光沢材料として織物のつや出しその他、模型材料。医術上その他の工芸的模型。
用材:(器具)、盆栽。
3.ヌルデ(フシノキ)落葉小高木。
温帯~亜熱帯。 北海道(渡島)。本州各地、四国、九州(沖縄島以北)、台湾、朝鮮、中国東北部、中国~ヒマラヤ。
用途 葉につく付子は染料、柔皮用 材は僧家の護摩木
4.ヤマウルシ 落葉小高木
温帯~暖帯上部。北海道、本国、四国、九州本土、対馬。南千島、朝鮮、中国。
用途 用材(細工物)
5.ウルシノキ 落葉小高木
中国~ヒマラヤ。 栽(日本・中国~ヒマラヤ)
用途 樹液からウルシを採集。
用材 (細工物)。果実からろう。新芽は可食で強壮剤となる。
6.ヤマハゼ 落葉小高木
温帯~暖帯。本州(関東以西)、四国。九州本土、対馬。朝鮮、台湾、中国。
用途 (細工物)、染料、ろう
【3.命名由来】
1.地名由来のもの
リウキユウハジ、タゥラフ、タゥハゼ、サツマ、サツマウルシ、
2.漆かぶれ関連のもの
ハジマキ、ハジマケ、マケノキ、カブレ、カブレノキ、カブレノキ等
3.その他
ハデ、ハデキ、ハデノキ、ハシノキ(紅葉)、ラフノキ、タゥラナ、ウルシラフギ(蝋)カブレ、カブレノキ、カブレンショ、ハイマケ、
マケノキ(漆かかぶれ)
「ウルシ属樹種別命由来」
特性-ハジ系とウルシ系
ウルシ属樹種においては、異なる樹種においても同じような名称をもちあっている場合が多い。例えばハニシ、ハジ系の別命は、ヤマウルシ、ヤマハゼ、リュウキュウハゼの3種に亘って、「同名異語の木」的に用いられている場合も含めて多い。
ウルシ系の別名は前出三者に加えて、ツタウルシ、ヌルデにおいても用いられている。
【4.ウルシ属樹種別命由来】
特性-ハジ系とウルシ系
ウルシ属樹種においては、異なる樹種においても同じような名称をもちあっている場合が多い。例えばハニシ、ハジ系の別命は、ヤマウルシ、ヤマハゼ、リュウキュウハゼの3種に亘って、「同名異語の木」的に用いられている場合も含めて多い。
ウルシ系の別名は前出三者に加えて、ツタウルシ、ヌルデにおいても用いられている。
【5.櫨をめぐる呼称史-呼称、の変化と一種の混乱】
ハゼ或いはハジ等の呼称、やそれが特定するウルシ属の樹木は、時代により変わったり、地域で相違があったり、学術上の名称や便宣上の通称、俗称、方言が交鎖錯したりで、一般にわかりにくい面も横たえているように思われる。
ウルシ属中、ツタウルシ、ウルシ、ヌルデは、形態上も識別しやすい呼称上の複雑さも少ないがヤマウルシ、ヤマハゼ、リュウキュウハゼの3種は
実物鑑定上も名称的に複雑な面がある。
1.今日、ハゼやハゼノキと呼称している樹種は、江戸期渡来のリュウキュウハゼである。
2.古代、はじ(黄櫨)又は、はじのき(黄櫨の木)と呼ばれたのは、現在のヤマウルシもしくはヤマハゼである。
3.渡来したリュウキュウハゼが、ヤマウルシやヤマハゼに樹姿や生態採蝋用途が類以していたことからはじ、はじのきの名がリュウキュウハゼの方に移り、更にはぜ、はぜのきになったものと考えられる。
4.リュウキュウハゼをはじ、はじのきと呼称するようになり、それまでのはじ、はじのき(今でいうヤマハゼもしくはヤマウルシ)をヤマハジ呼称として区分するようになった。
5.黄櫨染は、古代、黄櫨の樹皮もしく心材を用いたもので、その黄櫨は今のヤマハゼ、あるいはヤマウルシにあたる。
黄櫨の漢名にあたる本来の植物は、南欧から中国にかけて分布する。
同じウルシ科のハグマノキで材から黄色染料を採ることで、この名があるといわれる。
6.古事記には、天之波自弓、 書記には天梔弓、万葉集(大伴家持)に神の御代より梔弓を、とあり、はじで弓が作られたが方言名にユミギ、ヤマアヅサのあるところから、この材はヤマウルシであると白井光太郎は考察している。
7.伊予宇和島では、リュウキュウハゼ渡来以前までは我国自生のヤマハゼ実より採蝋していたが、リュウキユウハゼ導入後は、二者を区分するため、
後者を唐櫨と呼称するようになった。ところで、呼称同定上の混乱は、江戸期よりあったおうで、例えば大和木草批正や木草啓蒙は、呼称同定上 の見解を記している。ここでは白井光太郎による「樹木和名考」の一節を添えておく。
「我邦古代にありてはリュキュウハゼを産せず、古代より中古に及びハゼと称せい木は、今日のヤマウルシを指すと考え、熊野物産初志に漆属四種を挙ぐ、ウルシ、ハジ、山ハジ、リウモク是なり、批中ハジは今日の琉球ハジ、山ハジは今日の山ハゼにして即ルス、シルベストリスに相当すが、如し、徳川時代に於て山ウルシをヤマハジと呼びしは、琉球ハジに対する為の名にしにて古代にありては、今日の所請山ハジ即真のハジなりしなり、
草木図説のヤブウルシ即植物名集のヤマハゼ古代にありて矢張ハジと呼び、ヤマウルシのハジとの間に区別を立てざりしきしたものと思はる。
而して弓材は専ら山漆のハジよりいを取りしものと思われるは弓?ヤマアヅサの方言あるにて知らるるなり。」
【6.うるし属5種の樹木名呼称】
1.ウルシ 上原啓二「樹木大図説(昭34) 別名<含 方言>
ウルシノモエ、ウルス、アカメ、カブレ、カブレノキ他9種
2.ヤマウルシ
ハジ、ヤマハゼ、ハゼ、アラ、ヤマハジ、オニウルシ
コミギ、ユバノキ、ヤマアジサ、計11種
3.ヤマハゼ
ハゼ、ハニシ、ヤブウルシ、ハデ、ハンジノキ、リウモク
イヌハゼ、ハゼウルシ、ハジ 他、計10種
4.リュウキュウハゼ
ハゼノキ、ハゼウルシ、サツマ,ハゼ、マケノキ、サツマウルシ
ハジ,ヤマハゼ、タゥハゼ、ヤマウルシ他、計38種
5.ツタウルシ
ウルシツタ、ダイコンジタ、タニウルシ、ウマコロシ、ツルウルシ
イヌグズ、ヤマウルシ、ノグズ、カキウルシ、フジウルシ 計100種
【7.ウルシ科以外でハゼの名称をもつ植物】
ナンキンハゼ(トウダイグサ科)、ナツハゼ(ツツジ科)、トキワハゼ(ゴマノハグサ科)
油脂植物であるナンキンハゼの語源については「秋に至り落葉のトキ紅葉シテ美し、故にナンキンハゼ伝」(本草綱目啓蒙)とある他に、採蝋植物としてのハゼノキとの共通点も関係あろうと思われる。
又ナツハゼの名は、夏に紅葉するところからのものでありうが、紅葉の代名詞のような取り扱いが櫨になされているのである。
一方トキワハゼの場所は、はぜ(爆米)の形を連想しての名称のようであり、櫨とは関係ないようである。
参考:深津正、植物和名語新考、昭和52、八坂書房)
【8.原産地】
・日本での分布は本州(関東南部以西)四国、九州、沖縄等の暖地で地限は伊勢、若狭辺という。
・世界の分布は中国、台湾(温暖帯)韓国(済州島、莞島)、満州、インド、ヒマラヤ、インドシナ、ジャワ、マレーシア等で1768年には欧州に入っている。
主として日本で栽培され、木蝋は日本の特産品となっている。
日本では初の栽培したものが逸出し、野生状態になったものが多い。寒地に適しないが、原産がおよそ同じである稲が、現在は、北海道でも栽培できるように地進している点では、異なっている。
稲が主食作物であったことや、櫨育種の技術上の困難性が関係していることであろう。
尚、ハワイ州オアフ島ホノルル市営フォスター植物園には、櫨の成木(樹高約8m、枝張り約8m)が標本として植栽されており自然樹形を観察できる。
植栽分布としては、他の一般植物と同様、基本的に温暖帯気候であれば、アジアに限らないポテンシャルを持っていると予想される。
原産地を明記した文献があまりみあたらないが、中国、インド、ヒマラヤ、東南アジア方面辺と思われる。
因みに白井光太郎は「植物渡来考」(昭4、岡書院)のリュウキュウハゼの来歴中に「支那の原産大和本草に近年異那より来るとあり伝々」としている。
次に、世界の農耕文化圏・作物起源地的観点からみてみたい。
星川によれば、ロシアの農学者ニコライニバビロフは、遺伝学を基礎とした「植物地理微分法」という手法で、地球上の作物の起源地を割り出し、大きく八つの地域に分ける研究を1926年に発表している。
その作物起源中心地のうちヒンドスタン地区
イネ、ナス、サトイモ、ショウガ、ゴマ、コショウ、サトウキビ、オレンジ、ダイダイ等ミカン類、バナナ、マンゴー、パンノキ等がその代表作物である。
尚、作物起源中心地は古代文明と関連深いという視点かあみるとすれば、インダス文明ということになるようである。「ウルシ」はチヵ、クワ、ソバ、ダイス等と同様、ヒンドスタン地区より高緯度の中国地区にゾーニングされる。
この起源地緯度の高低差に準拠するかのように、日本では西南日本に於てハゼが、主として東北地方方面でウルシが栽培されてきているかのようにもみてもとれそうである。
1.櫨の分布は年平均14℃もしくは、15℃以上くら1月平均0℃以上といえる。
又特記されてよいことは、渡来植物としてのリュウキュウハゼは、育種や栽培技術改良の努力によって、原産地以上に日本において農林作物化(文化化)されたということである。
[植物ロウ ]
【木蝋(純植物性)】
ハゼ実から採取する(ハゼの木の実から搾りとったもの)
原産地:上塗り……和歌山、四国
:下塗り……九州
【性状】
・臭い:特有の臭い
・味:特有な味
・溶性:エーテル、クロロホルム、二硫酸、ベンゼンに溶けやすく、冷アルコールに難溶
・融点:50~55℃
・比重:0.871~0.878(100/4℃)
・酸化:25>
・ケンカ化:205~225
・よう素価:5~18(1g)
・不ケンイ(物℃%) 1 :>
・乾燥減量:―
・きょう雑物:―
・水分(%):0.8>キシロール法
・炭素数:16~24の一塩基酸グリセリード90~91%
・炭素数:19,21,23ニ塩基酸グリセリード3~7%が主成分である。
※このニ塩其酸は1900年A・Cgeiielによって日本酸と命名された。
※酸化:原子あるいは原子団が電子を奪われる反応。逆の反応を還元。
※ ケン化反応:エステルの加水分解によって酸、アルカリを生じる反応。
油脂1gをケン化する必要な水酸化カリウムのmg数をケン化価という。
油脂をつくっている脂肪酸の分子量が大きいほど、また油脂にマジっている不純物が多いほどこの価は小さくなる。
※ よう素価:油脂100gが吸収するヨウ素のg数をヨウ素価という脂肪酸中の不飽和結合が多いほどこの価が大きい。
【炭素数】
・オレイン酸(融点13℃):オレイン酸は構造上不安定な状態
・動物細胞でつくられる脂肪酸の1つである。(18個の炭素原子と1個の二重結合を有する不飽和脂肪酸)
・パルミチン酸(融点63℃)
CH3(CH12)14COOH動植物中で大量に蓄え、エネルギーが必要になると分解してエネルギーを作る。(エネルギーの源)
【オレイン酸(不飽和脂肪酸)】
オレイン酸は人間の体内で合成できる単価不飽和脂肪酸。 主に、動脈硬化、高血圧、虚血性心疾患、ガン、胃潰瘍に有効。オレイン酸は酸化しにくく、悪玉コレステロールのみを減らす作用がある。
また、体内で発ガンを促進する可能性がある過酸化脂質を生成しにくいため、オレイン酸は、間接的にガンを予防する効果がある。
・血中コレストロールの減少。
・胃酸の分泌の調整。
・腸を滑らかにし、腸の運動抗進。
・酸化しにくく、加熱する料理にも向いている。
・過剰に摂ると、エネルギー過剰に。
〇多含有食品 オーリーブ油、ナッツ、アーモンド、落花生
【パルミチル酸(飽和脂肪酸)】
パルミチル酸は、炭素数16の直鎖高級飽和脂肪酸の一っで、ステアリン酸やオレイン酸とともに広く動植物界に分布し、木ろうやパーム油中に多く含まれる。化学式はCH3(CH2)14COOHで融点は63℃。
水には不溶でアルコールやエーテルには溶ける。エタノールには難溶。ラードに多く含まれる。化粧品や界面化性剤などによく用いられている。
・飽和脂肪酸は体内コレステロールの増加。
・中性脂肪の増加。
・血小板の凝集と血液粘度の増加。
・陸上動物の脂肪に多く含まれる。
・過剰にとると動脈硬化の原因となる。
・脳卒中、狭心症、心筋梗塞等の危険性がある。
【ろう】
ろうも自然界にい多く分布する。植物では葉や果実を保護するコーティングの役割を果たす。
また、みつろうなど昆虫が分泌するものもある。ろうは奇数個の炭素原子を含む長鎖アルカン(C25~C35)
2級アルコールやケトンなどの酸素を含む誘導体などを含む複雑な混合物である。
水に不飽わ炭化水素其をもつので、化学的には不活性である。植物の葉の表面では、ろうは摩耗
や水の蒸発を防ぐ。昆虫、水鳥、羊毛などが水をはじくのはろうのためである。海洋の油汚染を除く
ために洗剤を用いると、油と洗剤のため羽毛のろうが解け、鳥は飛べなくなる。
エステル型ろうは潤滑として優れ、商品価値が高い。
昔はマッコウクジラから採ったが現在はハホウバ(ツゲ科の小低木)という珍しい砂漠の植物がこれにかわった。
この種に大量なエステル型ろうがある。
ページ作成 2016.3.19